音楽鑑賞の備忘録。
ピリオド楽器・奏法による演奏。
アンサンブルとしても、表情の作り方としても、メリハリとかキレがあって、明解な音楽を作っている。一歩間違うと音楽の自然な流れを損なうくらいのメリハリだけど、足を踏み外すことなく、全体をスムーズに流しながら、音楽の機微を鮮やかに浮き彫りしていく。
1パートを1人の歌手or奏者が受け持つ演奏を耳にする機会が増えてきた。アーノンクールはそういうやり方を採っていないけれど、音のダブつきとか粘りは徹底的に排除されていて、テクスチュアはいたって鮮明。サウンドを制御する能力を見せつける。
楽譜の音はもれなく聴かせてくれるけど、それらを平明に響かせるより、緊密に連携させながら表情を作り込んでいく感じ。彼なりの楽曲についての洞察をふんだんに盛り込んでいる。といっても、恣意的とか奇抜ということはなくて、音楽の展開をわかりやすく整理してくれる印象。楽曲を親しみやすく聴かせる。
ミサ曲の堅苦しいイメージを脇において、この作品にどれほどの感覚的な愉悦が溢れているのかを示しているようにも聴こえる。
そして、そのアプローチにはそれなりの説得力を感じる。ミサ曲ロ短調はもともと通俗性に富んでいて、アーノンクールがそれを引き出しただけなのかもしれない・・・というような。
ピリオド楽器・奏法による演奏。
対位法の大家としてバッハの側面を強く打ち出した演奏。
人の歌声という、最も雄弁で表情豊かな"楽器"を用いながら、歌声の可能性を存分に引き出すより、対位法の構成要素として、ある意味抑制的に扱っている。独唱も合唱も、端正で親密なアンサンブルの構成要素として、徹底的にコントロールされている。器楽的な声楽の扱い方、というのは語弊があるかもしれないけれど、声の多彩な質感より、対位法の線の動きを浮き上がらせることに歴然と軸足が置かれている。
明解にキビキビと演奏されていて、個々のパートの動きにはキレがあるけれど、音の刻みは軽快だし、テクスチュアをくすませない程度には柔らかくて、総体としてキレとかメリハリが際立つことはない。
それらがあいまって、相対的に小規模な編成で演奏されているとは言え、独唱+合唱+器楽陣というバラエティ豊かな編成による音楽なのに、落ち着いているというか、静けさすら感じるような仕上がり。
声楽陣、器楽陣が親密に連動しながら、鮮やかなアンサンブルが展開されている。個人個人の力量は高いのだけど、聴き所は一体となって繰り広げられる対位法的なサウンドイメージと思う。特にクレドの演奏でそのことを実感した。
個人的には、誠実というのを通り越して、対位法的な様式美に耽っているような印象を受ける。
この楽曲をよく知っている人ほど、その意図するところを実感できるような、気骨ある演奏と言えそう。