ベートーヴェン  交響曲第7番

フレッシュで活気あるベートーヴェン像

  • ジョン・エリオット・ガーディナー (指揮)
  • オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
  • 1992年のセッション録音

ピリオド楽器・奏法による演奏。現代的なオーケストラと比べて編成は小さいし、個々の楽器の響きは薄い。それでも、響きの総体として、薄さや堅さを感じさせない。弦優位のサウンドバランスで、厚みと量を感じさせながら、活き活きとしたノリで駆け抜ける。
復古調というより、現代におけるピリオド楽器・奏法の楽しさについて、十分に吟味されているような感じ。
高い演奏力に裏付けられた、フレッシュで活気あるベートーヴェン像が実を結んでいると思う。

全般的に、ガーディナーのバランス感覚の良さに感銘するけれど、この指揮者の個性なのか、リズムの軽快さが強め。たとえば、第二楽章アレグレットあたり、歌うより、弾む感覚が上回っている。陰影とか粘る感触は希薄で、楽器や奏法の特性もさることながら、演奏者の個性を感じる。

ピリオド楽器は、響きが薄いぶん、管弦楽のテクスチュアが明瞭に聴き取れる、という印象を持っていたけれど、この演奏はそうでもない。
弦優位のサウンドと、足早な進行のためか、細部の明瞭さでは、現代的なオーケストラと同じくらいか。
ピリオド楽器のオーケストラなりのサウンドの充実感を重視したことと、裏表だろう。

こういうベートーヴェンを好む、好まないとは別に、ピリオド楽器・奏法を切り口に、フレッシュな作品像を打ち立てることに成功していると、感じる。
そういう意味で、価値の高い仕事と思う。

豊かに、かつ怜悧に

  • ヘルベルト・ケーゲル (指揮)
  • ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 1982-83年のセッション録音

造形感覚とかアンサンブルは怜悧で明晰で画然としているように聴こえる。 一方、低弦を厚く広がるように鳴らしていて、それに録音会場(ルカ教会)のよく響く音響特性があいまって、ロマン派風の重厚趣味を匂わせている(ごく個人的な演奏史観によれば・・・)。
ドイツの古典音楽っぽさを受け継ぎつつも、その後のドイツ音楽の進展、たとえばロマン派風の重厚趣味とか、20世紀風の即物性などなどが、ケーゲルの流儀の中で程よくバランスしているように聴こえる。
ベートーヴェン像を彼なりに総括することを目指しているのかも。

サウンドとしては外声部優位で量感がある。
奥行きと広がりを聴かせるけれど、鈍重に響くことはなく、内声部が埋没しないように制御されている。歌わせ方自体は引き締まっているし、切れの良さや繊細感を味わうことができる。
豊かな音響のせいか一聴して精緻さを印象づけられる感じではないけれど、馴染んでくると、作品の書法を明解にしつつ、細かく作り込んでいることが伝わってくる。

ドレスデン・フィルはよく知らないオーケストラで、磨き上げられているというような響きではない。洗練は感じられないけれど、アンサンブルはきちんと整えられ、揃えられていて、作品を味わう上で不足を感じない。

音響構造体の側面と、人間臭いドラマの可能性を、バランスよく提示

  • フェレンツ・フリッチャイ (指揮)
  • ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 1960年のセッション録音

ステレオ録音。音の鮮度と分離はほどほどだけど、広がりを感じさせる響き。

とても行き届いていて、わたしがこの楽曲に求める要素が、バランス良く斟酌されている。キレイにまとまっているという次元ではなくて、押し出しとか、雄弁さだって事欠かない。
指揮者の有能さを強く感じる。

造形は整っているし、強い感情表出はしていないけれど、アンサンブルのコンビネーションをきめ細かくコントロールして、音楽の気分の変化を明解に意識させてくれる。
この交響曲の音響構造体としての側面と、人間臭いドラマとしての可能性を、バランスよく提示してくれる。

敢えて言うなら、鬱蒼としたオーケストラの鳴らし方で好みが分かれるかも。色鮮やかな音響とは言い難く、燻んだような色合い。録音会場の特性もありそうだけど。
響きの色彩感に着目すると淡白に聴こえるかもしれない。あるいは、サウンドの厚み、渋みに好感するかもしれない。

ヨッフムの傑出した"上手さ"

  • オイゲン・ヨッフム (指揮)
  • アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
  • 1969年のセッション録音

ちょっと軽めのサウンドだけど、柔らかみとブレンド感がありながら、見通しは良好。気持ちのいい録音。

低音厚めのサウンドバランスは、いかにも20世紀中葉のドイツの巨匠らしく聴こえる。でも、音の出し方が軽いので、ズシンと手応えのあるサウンドではない。各奏者が力一杯弾いている感じではなくて、いくらか余裕を残している感じ。そのぶん小回りが利くし、耳障りな音がしないから響きは整っている。

その上で、ヨッフムの耳の良さとか、オーケストラをコントロールする能力を見せつけられる。テクスチュアの鮮明なこと!この指揮者の器用さは、名指揮者と呼ばれる人たちの中でも、上位にあると思う。
そして、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団は、機動的なアンサンブルで十全にヨッフムの棒に応えている。気持ちのいいアンサンブル。

音楽の佇まいはジェントルで端整だけど、ところどころに大きめのタメが入ったりする。血の気の濃い演奏ではないから、興がのってやっている感じはしない。あくまでも作品の解釈としてやっている。そういうところに、20世紀前半の匂いを覚える。


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