ベートーヴェン  ヴァイオリン協奏曲

ハイフェッツの圧倒的な存在感

  • ヤッシャ・ハイフェッツ (ヴァイオリン)
  • シャルル・ミュンシュ (指揮)
  • ボストン交響楽団
  • 1955年 ライブ録音

1955年11月25日のコンサートの実況録音。同じコンビによるRCAへのセッション録音が1955年11月27〜28日に行われている。
セッション録音直前のコンサートの模様。
モノラルの実況録音だが、ハイフェッツのヴァイオリンを楽しむには十分な水準。

RCAへのセッション録音からは、良くも悪くもメカニカルな印象を受けた。ハイフェッツの人並外れた性能の高さが前面に出ていたと思う。
こちらのライブ録音は、そうした能力を使って、ハイフェッツがコンサートで、どんなタイプの感銘を生み出していたか鮮明に記録されている。やっていることはセッション録音に近いけれど、受ける印象とか感銘は異なる。

歌い上げるように、ではなく、流暢に語るかのようにヴァイオリンを奏でている。大きな身振りはないし、彫りも深くない。そして、スイスイと進めていく。それなのに、いたって艶めき、表情に富んでいる。
ヴァイオリンの奏法には明るくないけれど、肩の力を抜いた状態で、多彩なニュアンスを精密かつ自在にコントロールできるようだ。そういう技術・表現力が桁外れであるために、より身振りの大きな演奏と比べても、ハイフェッツの方が、表情豊かに聴こえてしまう。
自然体風にスイスイと演奏されるために、ベーシックなところでの能力の高さがよけいに際立って聴こえる。圧倒的な存在感。

ミュンシュの指揮は、オーケストラが前に出る場面では骨太で力強い感じだけれど、ソリストが入ってくるとグッと音量を落として、引き立て役に回る。ミュンシュには熱血漢のイメージ(音楽の質的に)があって、ハイフェッツとは指向が異なるような気がするけれど、互いの持ち味を見事に両立させていると思う。

(2014-05-31)


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