音楽鑑賞の備忘録。
低音を豊かに広々と響かせながら、柔軟かつ精妙なアンサンブルを聴かせる。この豊かさと精妙さを並び立たせる芸風が磨き上げられて、他とは一線を画する魅力になっている。
量感たっぷりで力感は十分だけど、重苦しさ、濁り、鈍さを感じさせない。精緻に練り上げられているけれど、豊かさを併せ持っている。
第一楽章は、豊かな広がりの中で、各声部が伸びやかに、鋭敏に、自在にアンサンブルを繰り広げていて、洗練された芸に聴き入ってしまった。
ただし、音楽は常に量感の豊かさに浸っている感じなので、響きの質感としては変化に乏しい。この響きを心地よく感じる人には良いかもだが、多彩とは言い難い。
豊かであって欲しい場面、力強くあって欲しい場面、伸びやかであって欲しい場面は十分に魅力的だけど、悲哀とか不安とかを連想させるような陰影の表現は全体に希薄。そのために、第二楽章を中心に、陰影の乏しい演奏に仕上がっている。
この交響曲をもっと暗く演奏して欲しい、ということではなくて、表情の幅が狭く感じられる。いくつかの異なる演奏を聴く限り、この交響曲では4つの楽章にそれぞれ異なる味わいが施されているようなのだけど、そういうことを堪能するには弱い演奏と思う。
ベースのところでは構成や作品書法からアプローチだけど、その上でヴァントの美学みたいなものがはっきりと表明されている。そして、その芸はちょっとやそっとではたどり着けないような、高みに達している。
ただ、楽曲に形からアプローチしながら、場面場面に託されたニュアンスを多彩に示すことのできる指揮者たちと比べてしまうと、表現力の頭打ち感がある。
表現されていることに限って言えばすこぶる練度は高いけれど、そもそも作品の全貌を表現し切れているとは感じられない。
(2014-06-07)
透明度の高い響きで、音の出し方が軽くて柔らかい。フレーズの線やリズムの刻みも柔和で上品。角がとれたようなブレンド感の強い仕上がり。端整さとともに、親密さを強く感じさせる。
現代楽器の豊かな鳴りを聴かせる。複数の線を織り上げるというより、淡い響きを重ね合わせていくようなアンサンブル。重厚でも骨太でもないけれど、響きの量感は豊かだし、ゆとりのあるテンポに乗せてサウンドイメージは広がる。
自然体風の展開だし、ロンドン・フィルのキャラのせいもあって落ち着いた風合い。押し出しの強い個性ではないかもだけど、サヴァリッシュ独自の境地を見せつけるような演奏に仕上がっていると思う。
ブラームスの交響曲としては明るくて伸びやかな第二交響曲は、サヴァリッシュの流儀との相性が良いような気がする。個人的に惹かれるのは偶数楽章。穏やかな物腰の奥に、洗練された技と芸を感じる。
演奏様式として洗練が徹底されているがゆえに、全曲通してトーンはある範囲の中に一定している。個々の楽章内は言うに及ばず、楽章それぞれのキャラの違いが際立つ、とも言い難い。
表情が乏しいとは思わないけれど、おとなしい印象ではある。聴き手の側に、音楽にしっぽりと浸る気持ちがないと、良さが伝わりにくい演奏かも。