ブラームス  交響曲第3番

柔軟で、研ぎ澄まされた至芸

  • ギュンター・ヴァント (指揮)
  • 北ドイツ放送交響楽団
  • 1983年 セッション録音

キリリと硬派な造形。情緒に耽ることなく、きびきびと進めていく。
各パートを凝った感じに多彩に絡み合わせながら、スッキリと網目の揃っているアンサンブル。音響は立体的な広がり、響きの量感はそれなりにあるけれど、音楽の見通しは良好。

精緻だけど、冷たいとか固いというような感触はしない。各パートの、折り目正しいけれどしなやかな表情。そして、それらの自然な連携。程よい厚みを伴いながら広がる音響。
聴き手の好みは別にして、剛と柔が絶妙にバランスした、立派で行き届いた演奏だと思う。

個人的には終楽章の立体的な表現には感服。ブラームスの書法が、こんなにも奥行きを持っていたとは!という感じで。

明晰で淀みのないアンサンブルゆえに、情緒とか陰影めいた成分は漂白されている感じ。それによって失われたものを惜しむ聴き手はいるかもしれない。
だとしても、ブラームスの熟達した書法の真価を、必要十分以上のクォリティで聴かせる力量は、目を瞠るものがある

渋い持ち味の楽曲を、甘く艶っぽく

  • ヘルベルト・フォン・カラヤン (指揮)
  • ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 1960年 セッション録音

贅沢を言うと、低音の伸びる感じがもっと欲しいけれど、録音年代を考えると優秀。

各パートの線の流れを鳴らし分けながら、肌理を損なうギリギリまで音の輪郭を緩めて、甘く、柔かく、しなやかに響かせている。量感は十分だけど、内声部が埋もれてしまうほど響かせることはない。甘ったるい傾向の響きだけど、オーケストラの(あるいは録音の)深い艶のおかげか、安っぽい感じにはならない。

フレージングは柔らかいというか、いささかなよっとしているくらいだけど、しなやかな曲線美で魅せる。
アンサンブルが織りなす綾の美しさに的を絞り、作品の書法の美しさをとことん引き出そうとしている、ように聴こえる。

激情的な持ち味の両端楽章にしても、剛直・重厚というのではなく、アンサンブルの線的な運動性でもって激しさを表す。
一方、渋い持ち味の中間の2つの楽章は、アンサンブルを甘やかにしなやかに磨いている。

耳あたりの心地よさに傾斜した、言ってしまえば甘口で軟派なブラームス像だと思う。品質の高いアンサンブルとセンスの良い音響のおかげで、品位は保たれているけれど、通俗臭がそこはかくとなく漂っている。しかし、そうしたことを含めて、楽曲自体の渋味を程よく和らげで、美味しく仕上げてくれている、と言えるかも。

管弦楽法の品位と美しさを、気持ちよく聴かせる

  • リッカルド・シャイー (指揮)
  • ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
  • 2012−2013年 セッション録音

個々のパートを艶やかに奏でさせながら、織り目鮮やかに流暢に織り上げて、キビキビと進行させる。
名門オーケストラの渋い色調と重層的な響きを活かして、深い艶を聴かせる。そのおかげもあってか、軽快だけど軽薄には聴こえない。
この交響曲に、重厚長大な響きや、深刻あるいは激烈な表情を望む人の期待には、沿えていないだろうけれど。

ブラームスの第3交響曲は、演奏することが技術的に難しいというより(楽器を演奏できないので判断できない・・・)、入り組んだオーケストレーションとか凝ったリズムをさばきながら、血の通った音楽に仕上げるのが難しそうな楽曲だと思う。
シャイーは、テキパキと進めながら、艶のある表情づけとか、能弁な語り口とかで、アンサンブルの妙を細やかに浮かび上がらせている。
とかく内向(内攻)的に、低回的に、無色彩に響きがちなこの楽曲の、作品イメージを揺るがすくらいに鮮やかな手並み。音楽がスムーズに、小気味よく流れ込んでくる。扱いにくい楽曲だからこそ、この指揮者の上手さ達者さが際立って感じられる。

こういうやり方が、このオーケストラ本来の持ち味であるかはともかく、オーケストラのレベルも高い。

良くも悪くも、ブラームスの名前にまつわりがちな固定観念を拭い去って、管弦楽法の品位の高さと、端正で密度の濃い美しさを、気持ちよく堪能させてくれる。こういう方向でのアプローチは、珍しいものではないけれど、割り切りの良さと快適さで頭一つ抜けているかも。

( 2014-9-15 投稿)

匠の手になる工芸品のごとき、アンサンブルの洗練

  • リッカルド・ムーティ (指揮)
  • フィラデルフィア管弦楽団
  • 1989年 セッション録音

フレーズの線の一本一本を、しっとりと艶やかに響かせる。そして、線の一つ一つを磨きながら、それらが親密に連動しながら、全体としては、広がりのある豊かな響きを実現している。
各パートの質感が見事に揃っていて、落ち着いた色調の艶っぽさで統一されている。個々のパートが際立つ感じではないけれど、個々の奏者も彼らのコンビネーションも抜群にうまい。特に、こんなにも柔軟な表現力を持つ木管群は、滅多に聞けないのではないか。そして、ムーティの美意識が浸透しきっている感じ。

力感や厚みは必要十分にあるけれど、隅々まで磨かれ整えられた様式美の訴えが強いために、音楽の起伏がドラマ性につながらない感じ。いろいろと形を変えながら示されるアンサンブルの洗練された様相を、静かに聴き入るような感覚。情念的な要素が取り払われて、匠による工芸品を愛でような感覚で、ブラームスの熟達した書法を味わえる。

提示される作品像はいたって平明。しかし、聴き慣れたこの交響曲が、別の次元にあるような感覚に襲われてしまう。もしかしたら聴き手を選ぶかもしれないけれど、演奏芸術としてのクォリティはある種の高みにある、と思う。


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