ブラームス  交響曲第4番

抑揚豊かに、滔々と流れ行く、独自の境地

  • カルロ・マリア・ジュリーニ (指揮)
  • ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 1989年 セッション録音

フレーズのひとつひとつをたっぷりとかつ流れるように歌わせながら、それらを連動させて滔々たる大きな流れを生み出していく。
細部まで表情は付けられている感じだけど、演奏姿勢はけっこう大様。響きが厚くなる場面では、多少の混濁はものともせず、たっぷりと鳴らしている。艶がかってこってりとした音響。

各声部が入れ替わり立ち替わり、というのではなく、線の太い弦群が前に出て主導する。楽曲がシンプルに整理されてわかりやすい反面、たっぷりとした弦群がいろんなものを塗りつぶしていて、精緻な作品書法が聴き取りにくく、大味と言えるかもしれない。作品のポテンシャルを味わい尽くしたい聴き手には物足りないかもしれない。
録音の質とか、オーケストラの持ち味がそんな印象を強化しているかもしれない。

締まりを欠いていると言えばそうなのだけど、ジュリーニの流儀がすみずみまで行き渡っていて、巨匠が泰然と自分の音楽をやっている感じ。
あれこれ考えないで、老巨匠の自然体の芸に身を任せるのが、正しい楽しみ方かもしれない。ジュリーニの生み出す骨太な流動感は、独自の境地に誘ってくれる。

すっきりとスムーズな語り口と、重層的な響き

  • リッカルド・シャイー (指揮)
  • ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
  • 2012−2013年 セッション録音

音楽の紡ぎ出し方と言うか、語り口そのものは、すっきりとしてスムーズ。手際よく颯爽と進行させていく。小気味よくて聴きやすい。

フレーズを絡ませながら音楽全体を深い呼吸でうねらせるとか、パート間のコントラストを際立たせながら彫りの深い表情を作り出す、みたいなやり方ではない。そういう味付けを期待すると、幻想的な広がりとか、深々とした情感みたいなものが恋しくなるかも。

そのかわりに、個々のパートを端麗に、優美に奏でさせて、それらを端然と、かつしなやかに織り上げていく。

響きの作り方は、オーケストラの持ち味を活かして、ということなのか、渋味があって重層的。音の輪郭を際立たせる鳴らし方とは違う。作品書法を濁らせないギリギリの範囲で、各声部の響きをブレンドさせて、渋味と厚みを効かせている。
サウンドを操るシャイーの美意識と手腕を見せつける。

すっきりとスムーズに進行させつつ、いくぶん渋味があって重層的な響き、という取り合わせが、この両者が出会い、切磋琢磨したことの精華なのだろう。
この方向性で、きわめて洗練されている。

(2014-8-24 投稿)

楽曲の成り立ちを明解に解きほぐす

  • エードリアン・ボールト (指揮)
  • ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 1970〜1972年 セッション録音

落ち着きのある足取りに、恰幅の良い枠組み。
フレーズを緊密に撚り上げるというのではなくて、ひとつひとつのフレーズの線の動きを浮き上がらせ、秩序正しく連動させていく感じ。

動静、強弱とかのコントラストは控えめだし、陰影は薄め。響きはそれなりに豊かだけど、やはり線の動きを鈍くしたり塗りつぶさない程度に制御されている。
しかし、クールでドライな方向に割り切っているわけではない。いささか制約は多いけれど、そこに抵触しない限度では、能動的に抑揚が施されている。耳を傾ける甲斐があるだけの、多彩な表情が織り込まれている。
いずれにしても、管弦楽の扱いに関して、確固とした演奏様式を感じさせる。

この交響曲は、音楽の表面は平明だけど、オーケストレーションは入り組んでいる。表向きは平明に、スムーズに流れながら、重層的で多彩なニュアンスを響かせる音楽をブラームスが狙っていたのだとしたら、ボールトのアプローチは、その成り立ちに一段深く踏み込めていると感じる。そういう意味で、格の高い演奏と思う。

ただし、入り組んだ線を解きほぐそうとする意識が勝っているせいで、演奏全体から受ける印象は、はっきりと薄味。重層的で多彩なニュアンスを味わうことはできるけど、堪能するには淡白かも。
この音源だと、演奏によっては静けさと激情のコントラストが際立つ第四楽章で、あっさりとした質感を特に意識させられる。
良い悪いではなく、そういう質の演奏ということ。

録音当時のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団は、ハイティンクが首席だった時期だけど、1950〜57年にかけてボールトが首席指揮者を務めている。オーケストラはボールトの流儀を心得ているものと思われる。
とはいえ、ボールトの演奏様式を考えると、より高い合奏精度が欲しくなる。もしかしたら、80歳を過ぎたボールトの棒のせいかもしれないけれど。

(2014-9-27 投稿)

たっぷりとして色鮮やかな音響美

  • サイモン・ラトル (指揮)
  • ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  • 2008年 ライブ録音

この演奏を特徴付けているのは、柔軟というか、芯というか繊維質を感じさせない歌い回し。そして、たっぷりとして発色のいい音響美。カラフルながら落ち着きのあるトーンだけど、感覚的な心地よさが追求されているように聴こえる。

喜怒哀楽みたいな意味での表情の幅がないわけではないけれど、耳の当たりをよくするために、刺激成分を取り除き、かつ何層にもわたってコーティングされている感じで、生々しく迫ってくることはない。楽曲の濃密でしなやかな書法を、屈託なく満喫するように演奏されている。仕上がりとしては、内面のドラマみたいな音楽とは、一線を画していると思う。

音楽を豊かに伸びやかに流しながら、それぞれの局面ごとに適材適所にそれぞれのパートをきらめかせていく。複数の線が織り上げられて一つの流れを生み出していくというより、まず豊かな響きとか流れがあって、そこに色とりどりの装飾が施されているような感じ。

ボリュームたっぷりのサウンドゆえに、膨満感とかのっぺり感があって、好き嫌いが分かれるかもしれない。それでも、サウンドは完全にコントロールされていて、感性としての、演奏技術としての洗練度の高さは抜きん出ていると思う。すごいことやりながら、それを当たり前と感じさせるレベルで。


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