マーラー  交響曲第1番

しなやかな繊細美は聞き物

  • ゲオルク・ショルティ (指揮)
  • ロンドン交響楽団
  • 1964年のセッション録音

録音は古いけれど、解像度の高い録音。今日の録音と比べて、自然な空間の広がり、みたいな感覚は乏しいけれど、十分に楽しめる音質。

楽曲のポテンシャルを、とことんダイナミックかつ明晰に描き出そう、というようなアプローチ。容赦なく自分流を突き詰めていく。
繊細とか、デリケートといいたくなる表現の一方で、音楽が力を帯びてくると、金管が野太くドスを効かせたり、筋肉質の低弦やティンパニがモリモリとせり出してくる。
荒っぽくやっているわけではなくて、サウンドバランスは統制されている。とは言え、演奏様式としての一貫性を保持できるギリギリの線まで攻めている感じで、聴き手によっては、一貫性を欠いているように聴こえるかも。
また、響きのブレンド感が乏しい録音の質が、そういう印象を助長するかもしれない。

それはそれとして、ヴァイオリンを初めとした各パートのしなやかでみずみずしいフレージングが印象的。ダメたり、コブシを回すことなく、ひたすら軽やかでスムーズに流していく。何とも気持ちいい。ここまでの清涼感はなかなか出せないと思う。
そうした美質を、透明度の高い響きとか、見通しの良さが引き立てている。そういう系統の演奏は少なからずありそうだけど、ショルティのオーケストラ・ドライブは見事なものだ。
たとえば、第一楽章の主題の歌わせ方とか、第三楽章の中間部の扱いとかは、この上なく精細でしなやか。聞き惚れてしまう。
何かと好悪が分かれそうな演奏だけど、しなやかな繊細感に関しては、特筆物の演奏という気がする。


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