音楽鑑賞の備忘録。
1982年のライブ録音。
狂おしいような情熱の迸りとか、夢見るようだったりとか、非日常的な感覚で作品世界を塗り込めていく。わたしは、この協奏曲自体に常軌を逸したものを感じるけれど、アルゲリッチの狂熱がそれに拍車をかけている。
技巧的な安定感よりインスピレーションを重視するようなアプローチだけど、指さばきは安定しているし、シャープで細身な音の粒立ちはいたって明瞭。生演奏であること、畳み掛けるようなテンポを考えると、超絶の技巧だと思う。
機械的に指がよく回る、という次元を超えて、敏捷にピアノから多彩なニュアンスを引き出す技量が桁外れ。超絶技巧が表現として完全に昇華されている感じ。ずば抜けた技巧が演奏の凄みを飛躍的に高めているけれど(曲が曲だけに)、技巧的ではない場面だって聴かせる。
楽曲把握が直観的な感じ。思いつきとか気分任せいう意味ではなくて、己れのひらめきを純化し、研ぎ澄ましたような表現と思う。好き嫌いは分かれるかもしれない。
アルゲリッチが楽曲を自分の色に染めきっているのは明らかだけど、演出意図をもってある部分を強調する、みたいなアプローチとは無縁なので、違和感をほとんど感じなかった。彼女にとっては、これが真実なのだなぁ、と納得させられるだけのリアリティを覚えた。
感じ方はいろいろあると思うけれど。
指の運動能力は凄まじいけれど、打鍵は中軽量級かな。音の粒立ちを重視して、音のダブつきを排除しているせいもあるのだろうが。パワフルな打鍵にのけぞるような瞬間は無かった。
スリリングという意味では圧巻だけど、押し寄せてくるような圧倒的な迫力とは違う、と思う。
シャイーは、ピアノを引き立てながら、行き届いたサポートを聴かせてくれる。明朗でやや甘い響きは、アルゲリッチのピアノと好対照かも。
YouTubeから発信するピアニスト、ヴァレンティーナ・リシッツァの全集から。
この難曲を、速めのテンポでバリバリと弾いていく。打鍵は力強いし、量感もそれなりに出している。量感の分だけ音の粒立ちの明瞭度は後退しているけれど、濁りを感じさせるほどではない。このあたりは、録音との兼ね合いがあるので・・・
激しい場面では、グワッと力がみなぎる感じで、畳み掛ける迫力は半端ない。何気なく超絶技巧をこなしてしまう、というのではなく、闘志(?)がグググッと漲る。わかりやすくて痛快。
どちらかというと、楽曲の捉え方はロマンティック寄りに聴こえるけれど、音楽の流れに没入している様子はない。没入ゆえの激しさというより、剛腕と気合の産物という感じ。
腕力だのみの粗い演奏ということはないけれど、平易な場面より、激しい場面の方が断然面白い、と思う。
この曲は、さりげなく弾かれるより、リシッツァのように闘志が表に出た演奏の方が気持ちいい、個人的に。