チャイコフスキー  ピアノ協奏曲第1番

端整に、鋭敏に、敏捷に、一点の曇りなく

  • スティーヴン・ハフ (ピアノ)
  • オスモ・ヴァンスカ (指揮)
  • ミネソタ管弦楽団
  • 2009年 ライブ録音

端整に、鋭敏に、敏捷に、一点の曇りなく楽曲の成り立ちを明らかにするようなアプローチ。ごく真っ当な姿勢のようだけど、段違いの精巧な作りと超絶技巧が、この演奏を非凡なものとしている。
わかる人にはわかるというレベルではなくて、明晰であることが快感としてビンビン響いてくる。

指が回る回る、高速かつ精密に。重力から解き放たれたようなリズム。音の粒子が、無重力の空間で秩序正しく高速運動を繰り広げる感じ。

端整な質の音楽ではあるけれど、機械的に整えられている感じではなくて、端整な中に、横の流れの変化とか、音の重ね方のアイディアなどが仕込まれていて、曲調の変化を鋭敏に、余すところなく捉えている、と思う。
また、盛り上がる場面ではオーケストラと互角以上に響き渡る。第3楽章の終盤あたりは、燦然とした強靭な打鍵で会場を圧倒する。

濃厚な情緒みたいなものは望めない。そもそも、気分とか雰囲気で聴衆をいい気持ちにしてやろう、という発想を感じない。
快速に進行させながら、情報量の多さ、克明さで、このピアノ協奏曲が、凝りに凝って作られた楽曲であることを、ナチュラルに実感させてくれる。

ヴァンスカ指揮ミネソタ管弦楽団は、陰影や湿り気を感じさせないテイスト。明るい伸びやかな響きでピアノを包みこみながら、ピアノしっかりと際立たせてくれる。


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